Steven Wilson Interview (1)

先日、どうにかプログ・マガジンのスティーヴン・ウィルソンのインタビューを訳し終えて、折角なので載せようかと。いまだダラダラと推敲中な上、細かいミスも多々あるかと思いますが、大目に見て頂ければ幸い…(;・∀・)

インタビューは新譜のレコーディング地であるロサンゼルスのスタジオに近い、多くの有名人が眠るハリウッド・フォーエヴァー墓地をそぞろ歩きながら行われ、アルバムのテーマから制作への意気込み、バンド・リーダーとしての心得、果ては人生観や死生観に至るまで存分に語られています。

ロサンゼルスの墓地を裸足でぶらついて、スティーヴン・ウィルソンはiPhoneを取り出そうと立ち止まる。
「ミラノに行ったことある? ミラノにはいい墓地があってね」
そう言って、彼はイタリアの記念墓地の写真にスクロールしようとiPhoneを掲げる。
「ここは何となく思い出させるよ」
パラマウント映画スタジオの端に寄り添った、死と虚栄が交差するハリウッド・フォーエヴァー墓地。その飾り立てた墓碑は叙事的な霊廟で、広大な地下の埋葬室は、ダグラス・フェアバンクスセシル・B・デミル、そしてルドルフ・バレンチノのようなハリウッド・レジェンドの終の休息地だ。
日中のそれはのどかな楽園で、空に向かって緑の炎のごとく弧を描く高い椰子の木がある。夜になれば、スティーヴン・キングでさえここを通るのを恐れるかもしれない。
有名な墓地は年に一度、"Dia de Los Muertos(死者の日)"という残虐なフェスティバルを催し、常時ホラー映画の上映と、たまに不気味な会場でロック・コンサートを行う。
「ギグにはクールな所だ」
ウィルソンは思案げに言う、「シガー・ロスがここでやったらしい」
墓地はウィルソンが超自然的ニュー・アルバム"The Raven That Refused To Sing (And Other Stories)"を演奏する行きつけの場になるかもしれない。そのアルバムは死と関わっているのだが、ウィルソンに半端ない寿命を与えている。
「僕がレコードで扱う怪談は古風でね」
ウィルソンは言い、その声は少年のような興奮で高まる。
「ほぼディケンズ風だったりヴィクトリア朝の怪談なんだ。子供の頃にラジオで聞いた『クリスマス・キャロル』を思い出すよ。あれは古き良き怪談だがそれだけじゃない。人生の確約に関している。ユニークな『その日を掴め』の物語じゃないか? 人生を大切にして楽しもう! それは生の再確認の方法として死を用いるというアイデアなんだ」

そのカルぺ・ディエムの姿勢がウィルソンの近頃の思想を総括している。実際、彼の精神は人生を音楽で楽しもうというお気に入りの黒いTシャツ上のモットーだと結論づけていいだろう。
なるほど、そんなわけで2ndソロ・アルバムに続くウィルソンの3rdアルバムは即興と冒険に満ちている。その転換は彼のレコーディング作業を全面的に変えるのみならず大胆にさせたが、ポーキュパイン・ツリーのようなバンドから遠くに送り込まれたプログレッシヴ音楽の探検地帯でもある。
「僕はもう音楽がどんな規則にも従わない自身の全宇宙に入り込んだんだ」
ウィルソンは息巻く。
「よりへそ曲がりで、自分勝手で、純粋で気高い。そこにはもっとジャズの感性、僕の以前のレコードから常に欠けていると思っていたものがある」
心配ご無用、スティーヴン・ウィルソンはジョージ・ベンソンのレコードを作っていたのではない。ウィルソンがソロ活動における新発見のジャズ作用を示すとき、マイルス・デイヴィスの"Bitches Brew"、キング・クリムゾンの"Lizard"、そしてマハヴィシュヌ・オーケストラの"Bird's Of Fire"のようなアルバムの観点で考えている。
「『ジャズ』という言葉を目にすると、人は急に僕が即興ばかりやるつもりなのかと思うんだ」
ウィルソンは言う、「その考えはなかった」
"The Raven That Refused To Sing (And Other Stories)"の企画の裏側にあるのは、しかしながら、それら古典的な録音物の自然発症的精神の再現である。


イースト・ウェスト・スタジオはハリウッド・フォーエバー墓地から車でちょうど2分のサンセット大通りにある。外側はウェディング・ケーキみたいに白く四角い建物で窓はないに等しい。それはほとんどの人々が気づかず通り過ぎるという匿名性で覆い隠されている。中はしかしながら、イースト・ウェストは吸血鬼の集会の隠れ家のようである。その狭い廊下は赤いカーテンの滝に包まれている。その他の壁はオズの魔法使いの緑に照らされている。端から端までゴス・シックな趣きだ。その所有に適した環境は、つまりはスティーヴン・ウィルソンの怪談についてのアルバム録音である。

ウィルソンのバンド──テオ・トラヴィス(サックス、フルート)、アダム・ホルツマン(キーボード、ピアノ)、ニック・ベッグス(ベース、チャップマン・スティック)、マルコ・ミネマン(ドラムス)、ガスリー・ゴーヴァン(ギター)──は第2スタジオ、秋らしい色調の羽目板で覆われた天井の高い部屋で、7日間で7曲録音した(それらの曲の1つ、"The Birthday Party"はアルバム用ではないが、ボーナス・トラックとして出るようだ)。
ウィルソンが称賛する多くの偉大なジャズ・ロックのアルバムのように"Raven〜" はスタジオでライヴ録音された。それは過去のソロの力作"Insurgents(2008)"、"Grace For Drowning(※2010)"を含む彼の全アルバム制作術からの革命的な試みである。しまいには、ウィルソンはエンジニアで伝説的存在のアラン・パーソンズまでレコーディング・セッションに入れた。
「僕のヴォーカルは別として、ライヴ・バンドの演奏に聞こえるかい?」
ウィルソンは言う。
「信じられる? 20年間スタジオでレコードを作ってきて、やったことがなかったんだよ。僕はいつもドラムを録音して、ベースが連れて来られたらベース部分を録音して、それからギターやキーボードを入れてたんだ。そしてクリックトラックを済ませて残らず編集して完璧なタイミングにする。それは連中のやってきたレコードの作り方じゃない。で、わかってきたのは、僕の音楽は再び自由になり始めたと思うんだ」
そのやり方の成果がエネルギッシュなテンションに満ちた1枚のアルバムだ。そこには壮大で重要な"The Watchmaker"、ピンク・フロイドの"Shine On You Crazy Diamond"とうなずき、文字通り幽霊の出る、殺人者が殺した妻の幽霊から報いの日に直面する話が語られるのを聴くことが出来る。そのトラックは素朴なアコースティック・ギター、和声、フルート、ピアノで始まる。しかし一個の気圧が一度全ての器材の集結に変わると募る嵐のようだ。それは螺旋状にねじれるギターとサックスの荒れ狂う竜巻で頂点を迎える。最終的に曲は静かなピアノのアウトロで消散する。
「スティーヴンは人が70年代のフュージョンを聴くつもりで音楽の演奏力と姿勢みたいなものをプログレに注入しようとしていたんだ」
ギタリストのガスリー・ゴーヴァンは言う。
「僕にとって一挙両得だね──規律や組織の類の『プログレ』を維持しつつ、いくらか緩さも機能していて、メンバーがそれぞれ同時に相互作用する、より自由な型の瞬間だよ」

2013年において、そのレコーディングへの取り組みは昔かたぎの高潔さである。同様にプログレフュージョン、そしてジャズはまず主流にない。こういう出し物が提供される場が見つかるといいけれど、例えば、ジュールズ倶楽部。道理で、ウィルソンが今日の音楽シーンで悩まされるわけだ。



※2011の誤りと思われる。



続く。