コレクター。

ティーヴン・ウィルソンの最近のインタビューで、新譜の中の1曲"Index"を語る際にジョン・ファウルズの長編小説「コレクター」にちょこっと触れていて、ハタチそこそこの頃にハマって読んだ身としては何だか嬉しかったり。

舞台は1960年代半ばのイギリス。
市役所に勤める、いわゆる喪男リア充嫌いの主人公・フレデリックは唯一の趣味が蝶の採集。
彼は街で見かけた美術学校生・ミランダに恋をしていますが、快活で友人も多い彼女に近づくことが出来ません。
ある日、サッカーくじで大金を得たフレデリックは、仕事を辞めて郊外の古い屋敷を買い、その地下室に誘拐したミランダを監禁してしまいます。
彼女好みに設えた部屋(とはいえ、逃亡されないよう改装済み)に「招待」し、一緒に暮らして仲良くなろうというフレデリックの提案にミランダが承知するわけがなく、不本意ながら彼は同居の期限を設けます。

ここから男女の異常な生活と心理戦が始まるのですが、フレデリックのリアルタイム目線と、ミランダの日記での心情が交互に綴られる日々は、とりわけ聡明で芸術を愛するミランダの人間性を鮮明にして、絶対にフレデリックとは相容れないであろうことを感じさせます。

それが伺える序盤のエピソード。
フレデリックが自慢の蝶のコレクションをミランダに見せるのですが、喜ぶどころか非難めいた目で見られてしまいます。
芸術家の卵であるミランダに誉めて欲しかったのでしょうが、却ってプライドを傷つけられてしまうのです。
そしてミランダはさながらガラスケースの中の蝶…。

ミランダは出来るだけフレデリックを理解し、歪んだ愛情と道徳観を正そうとします。しかし、その助言が所詮はスノッブの戯言としか聞こえない彼には伝わりません。
フレデリックフレデリックで、勝手に思い描いた「女子像」に裏切られ(?)困惑するのですが、自分はここの主人であり、誰にも知られずに彼女が手中にあることで面子を保ちつつ、彼なりに紳士的に接しようと努めます。
彼はミランダの要望に条件を付けつつも全て応えます。外部との接触と解放のみを除いて。

すれ違いながらも、交流が上手くいきだしたように見えたとき、ミランダの行動から互いの立場が微妙に変化していきます。

結局、その生活の先に待っていたものは…。


残念ながら、いまは絶版で上巻のみ在庫僅少という状況で、私も「2代目」を買っておけばよかったと後悔しきりです。白水社さん、復刻してくれないかなあ。


追記: 映画版も有名ですが、正直言ってあんまり好きじゃないです。
だってミランダがバカなんだもん。。